この記事の要点
- 国土交通省の令和5年度調査では、修繕積立金を普通預金に置く管理組合が76.8%を占めている
- 建設工事費は2020年度から5年で2割強上がり、普通預金の利息では積立金の目減りを防げない
- 運用先の選び方は総会の決議事項で、すまい・る債や個人向け国債など元本の安全性が高い商品から選べる
「修繕積立金が1億円以上あるのに、利息はほとんどゼロなんだけど…」
「運用を提案したいけど、損をしたら理事の責任になるのでは?」
見積もりのたびに工事費は上がるのに、積立金の残高はほとんど増えないと感じる方は少なくありません。建設工事費が上がり続け、普通預金のままでは次の大規模修繕で資金が足りなくなるおそれもあります。
運用を考えたくても、損失が出たときの責任や総会での説明を思うと、何から調べればよいか迷うでしょう。
元本保証のある商品を規約に沿って選べば、管理組合でも無理なく運用を始められます。2025年10月に改正された標準管理規約にも、修繕積立金を運用に使う経費の定めが加わりました。
本記事では、運用先4つの比較と守るべきルールに加え、総会決議までの手順を紹介します。
公的な根拠をもとに説明できるため、理事会でも区分所有者の合意を得やすくなるでしょう。
マンション管理の修繕積立金の運用とは

修繕積立金は、普通預金に置いたままにすると工事費の上昇に追いつけません。
修繕積立金の運用とは、元本を守りながら資金の価値を保つ取り組みのことです。
修繕積立金の運用先は普通預金が中心
国土交通省の令和5年度調査で、修繕積立金を銀行の普通預金に置く管理組合は76.8%でした。定期預金に置く組合は35.1%で、すまい・る債の利用は19.1%です。
回答は重複可のため、併用する組合も含む数字となります。
参照:国土交通省「令和5年度マンション総合調査結果〔データ編〕管理組合向け調査の結果(表29⑩)」
インフレで積立金の価値が目減りする
国土交通省の建設工事費デフレーターでは、2020年度を100とした建設総合の値が2025年度(暫定)で121.9でした。5年間で工事費が2割強上がった計算です。
普通預金の利息では、同じ期間の上昇分を埋められず、発注できる工事の量は減っていくでしょう。
修繕積立金の主な運用先4つを比較

管理組合が選べる主な運用先は、預金・すまい・る債・個人向け国債・積立型保険の4つに絞られます。
運用先とは、修繕積立金を工事の日まで預けておく金融商品のことです。
元本保証と換金のしやすさで4つを比べました。
| 運用先 | 元本保証 | 中途換金 | 主な注意点 |
| 預金 | あり(保護範囲内) | 随時(定期は解約手続き) | 利息がわずかで物価上昇に弱い |
| マンションすまい・る債 | あり(満期保有時) | 初回発行日から1年以上経過後 | 応募期間が年度ごとに決まっている |
| 個人向け国債 | あり(満期保有時) | 発行後1年経過後 | 管理組合の購入は2027年1月発行分から |
| 積立型マンション保険 | なし | 解約は可能 | 早期解約では返戻金が払込額を下回る |
安全性と流動性のどちらを重視するかで、組み合わせ方は変わるでしょう。
普通預金・定期預金・決済用預金
預金は、いつでも引き出せる点で選ばれています。決済用預金とは、利息が付かず、いつでも引き出して決済に使える預金のことです。
決済用預金は全額が保護される反面、利息が付かず物価上昇には勝てません。
マンションすまい・る債
住宅金融支援機構が発行するマンションすまい・る債は、管理組合向けの利付10年債券です。1口50万円単位で申し込み、毎年続けて積み立てる形が取れます。
初回債券発行日から1年以上が過ぎれば、1口単位の中途換金も可能です。応募期間は年度ごとに決まっているため、総会の承認時期を逆算しておきましょう。
個人向け国債
財務省は、個人向け国債の販売対象を2027年1月発行分から一部の法人へ広げます。対象にはマンション管理組合も含まれ、商品名は「個人向け国債プラス」となる予定です。
販売開始日は、取引先の窓口で確かめましょう。
参照:財務省「個人向け国債の法人等への販売対象拡大について」
積立型マンション保険
積立型マンション保険は、火災などの補償に積立部分を組み合わせた損害保険です。元本保証はなく、満期まで続けて初めて払込額に近い額が戻ります。
解約返戻金は払込額を下回るのが一般的なため、補償内容と積立期間が大規模修繕の時期と合うか、契約前に照らし合わせましょう。
修繕積立金の運用で守るべき3つのルール

修繕積立金の運用は、規約に沿って元本の安全を守ることが前提です。
- 標準管理規約の運用の定め:自組合の規約と改正後のひな型を照らし合わせる
- 安全性・流動性・収益性の順:元本、引き出しやすさ、利回りの順で運用先を絞り込む
- ペイオフ対策:保護される範囲に収まるよう預け先を分ける
3つを押さえておけば、総会でも説明に迷いにくくなります。
標準管理規約に運用の定めが加わった
国土交通省によるマンション標準管理規約の改正日は2025年10月17日です。修繕積立金を充てられる経費として、第28条第1項第5号に「修繕積立金の管理及び運用」が新設されました。
コメントでは、残高証明書の発行手数料や融資を借りる際の保証料を想定される費用にあげています。自組合の規約が改正前のままなら、変更も検討しましょう。
安全性・流動性・収益性の順で考える
修繕積立金は区分所有者全体の資産で、元本割れを避けるのが前提です。次に見るのは、長期修繕計画の工事時期に合わせて引き出せるかどうかになります。
利回りを比べるのは、2つの条件を満たした後の段階でしょう。
ペイオフ対策で預け先を分ける
ペイオフとは、金融機関の破綻時に預金保険で預金を保護する仕組みのことです。利息のつく預金は1金融機関あたり元本1,000万円と利息まで、決済用預金は全額が守られます。
権利能力なき社団と認められる組合の預金は、組合の預金として合算される扱いです。利息つき預金に置くなら、決済用預金への移し替えや預け先の分散を検討しましょう。
修繕積立金の運用を始める3つの手順

修繕積立金の運用は、次の3つの手順で始められます。
- 長期修繕計画の確認:取り崩す時期と金額を書き出す
- 運用方針の決定:理事会で運用先と期間を決める
- 総会の決議:普通決議で承認を得る
この順に進めると、選んだ根拠を区分所有者に示しやすくなるでしょう。
長期修繕計画で使う時期を確かめる
長期修繕計画とは、将来の修繕工事の時期と費用を年ごとに見積もった計画のことです。国土交通省のガイドラインでは、計画の期間を30年以上、かつ大規模修繕を2回含む期間以上としています。
計画表を開き、次の大規模修繕で取り崩す年と金額を書き出しましょう。
参照:国土交通省「長期修繕計画標準様式、長期修繕計画作成ガイドライン(コメント含む)」
理事会で運用方針を決める
運用方針とは、修繕積立金の預け先と金額、期間を示す管理組合の決まりのことです。標準管理規約でも、修繕積立金の運用は管理組合の業務に位置づけられました。
理事会では工事時期から逆算し、取り崩しに間に合う期間を選ぶ役目があります。方針案には、次の4項目を書き入れましょう。
- 運用先:定期預金や国債など預ける商品の種類
- 上限額:運用に回す金額と普通預金に残す金額
- 期間:次の取り崩し時期より前に満期を迎える年数
- 報告方法:理事会や総会へ残高を知らせる頻度
4項目がそろえば、総会の議案書にそのまま転記できます。
総会の決議を経て運用を始める
標準管理規約の第48条では、修繕積立金の保管と運用方法を総会の決議事項としています。普通決議のため、出席組合員の議決権の過半数で可決となる仕組みです。
理事会で議案を決め、総会の2週間前までに招集通知を送りましょう。可決後は、方針に沿って口座開設や商品購入へ進みます。
よくある質問
修繕積立金で株式や投資信託を買えますか?
修繕積立金の利息に税金はかかりますか?
修繕積立金を運用するには管理組合の法人化が必要ですか?
まとめ|運用先を比べて理事会で検討を始めましょう

修繕積立金は、普通預金のままでは工事費の上昇に追いつけません。
長期修繕計画で取り崩す時期を確かめ、すまい・る債や定期預金など元本保証のある運用先を比べてみましょう。
規約に沿って運用方針を決めておけば、次の大規模修繕に必要な資金を守りやすくなります。


